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野生のゴリラは生姜の葉が好き

京都大学とガボンの熱帯生体研究員らからなる国際共同研究チームが、ガボン共和国ムカラバ・ドゥドゥ国立公園に生息する野生ニシローランドゴリラが生姜を片手で土から引き抜き、左右一方の手で茎の皮を剥き食べる行動を発見した。この行動はニシローランドゴリラだけではなく、多種のゴリラにも見られることから、アフリカに生息する大型霊長類全般にみられる行動として注目されている。この発見によって、ヒトの特徴の一つである集団レベルの右利きの出現性についての仮説を入れ替えるきっかけとなっている。

 

これ以前は、ヒトの利き手行動は言語の進化との関係が深いと主張されてきた。しかし、言語を持たないゴリラにも同じ利き手行動が見られることから、利き手の進化の起源を理解する上で大変重要な行動指標となっている。

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ある朝の事、いつものようにメールチェックから仕事を始めた私は、上野動物園の飼育係からのメールに目が止まった。内容は、「野生のゴリラが生姜の茎を利き手で皮を向いて食べる行動があることがわかり、ならば、動物園生まれ、動物園育ちのゴリラが野生と同じ行動をとるのかを試してみたい」というものだった。思いがけない問い合わせに私は心ときめく。なぜなら、私は動物行動学者でチンパンジー研究の先駆者であるジャーン・グドール大ファンだったからだ。彼女は、専門外からチンパンジー研究の先駆者となり、ヒトとして初めてチンパンジーに仲間として受け入れられた人で、もちろんチンパンジーと会話をすることも出来る。「ヒト」とその他の生き物との垣根を超えて心を通わすことのできる彼女を尊敬していた私は、いつか常識にとらわれない味方で生姜という植物をもっと知り、農薬や化学肥料なしに生姜を育てる栽培方法を確立することを夢見ていたし、そこから自然環境を護り、人の健康にも寄与したいと強く思っていた。しかし、これはとても難しいことで、栽培研究を進めるには多くの時間を有する上に、日本ではオーガニック市場拡大の支援体制が乏しいこともあり、市場がなかなか広がらず、苦戦する日々が続いていた。

 

そんな折、思わぬ先から無農薬の生姜の茎を買いたいとのオファー。しかもゴリラ!ヒト社会への普及に足踏みしていた有機の生姜を、ゴリラは選んでくれたのだ。では、なぜゴリラは有機の生姜の茎でなければならないのか?これについて、現在、生姜の茎は残留農薬検査がなされていない事がその理由である。

生姜はワンシーズン30回の農薬散布が許されている。病害虫の殺菌を目的とした農薬だが、この残留農薬検査は行われていない、なぜか?それは生姜の茎はヒトの食べ物ではないからだ。厚労省ではヒトの食べ物以外の残留農薬検査は行わない。一方でゴリラの食品安全基準はヒトとほぼ同じことから、残留農薬を懸念した飼育係は無農薬の茎を選んだというわけだ。一方で、生姜の茎には特定の薬効があることが分かっているが、農薬散布なしに本丸の生姜が作れないことから、生姜の茎の人活用は未だなされていないのだ。

 

上野動物園の取り組みは、日本初の取り組みで、実際生姜の茎を食べてくれるのか半信半疑であったが、初めて生姜の葉を手にしたゴリラが野生のゴリラ同様の行動をとり、美味しそうに食べたその瞬間の感動は、私に届いた飼育係からのメールからも伝わってきた。この出来事は、無農薬で生姜を作り続けた苦労を労うに十分なものだった。この世界に入って13年経つが、あまりの困難さに自分がやっていることが無意味に感じられたこともあった。「無農薬でなくてもいいのではないか・・」そんなささやきが聞こえたこともある。ただ意味のない拘りにとらわれているのではないだろうかと。。

 

多くの生産者やそれに関わる人たちは無農薬栽培は農業レベルでは無理だと思っている。実際に、まだまだ技術的にも未完成な分野である。しかし、私たちは無農薬での生姜栽培は農業レベルで可能だと確信している。未だ実証データが乏しく、確立されていない栽培方法ではあるけれども、理論的には十分可能な栽培方法だからだ。あとは実践とデータを積み上げることで、近い将来必ず有機生姜の市場は広がるだろう。栽培技術の向上と共に、ますます多くの無農薬の生姜と茎が私達霊長類の健康と地球環境の保全に寄与してくれる事を強く願っている。

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