
ゴリラは生姜の葉が好き
京都大学とガボンの熱帯生体研究員らからなる国際共同研究チームが、ガボン共和国ムカラバ・ドゥドゥ国立公園に生息する野生ニシローランドゴリラが生姜を片手で土から引き抜き、左右一方の手で茎の皮を剥き食べる行動を発見しました。この行動はニシローランドゴリラだけではなく、多種のゴリラにも見られることから、アフリカに生息する大型霊長類全般にみられる行動として注目されています。この発見によって、ヒトの特徴の一つである集団レベルの右利きの出現性についての仮説を入れ替えるきっかけとなっています。
以前は、ヒトの利き手行動は言語の進化との関係が深いと主張されてきた。しかし、言語を持たないゴリラにも同じ利き手行動が見られることから、利き手の進化の起源を理解する上で大変重要な行動指標となっています。

ある朝の事、いつものようにメールチェックをしていると、上野動物園の飼育係からのメールに目が止まりました。内容は、「野生のゴリラが生姜の茎を利き手で皮を向いて食べる行動があることがわかり、ならば、動物園生まれ、動物園育ちのゴリラが野生と同じ行動をとるのかを試してみたい」という内容。思いがけない問い合わせに私は心ときめきました。私は以前から動物行動学者でチンパンジー研究の先駆者であるジャーン・グドール大ファンでしたので、常に既存の価値観に囚われずに研究に向き合う彼女を尊敬していて、私も生姜で彼女のような取り組みをしたいと淡い想いをもっていたのですが、まさか上野動物園のしかもゴリラからオファーが来るとは想像もしていませんでした。2024年からは多摩動物園のチンパンジーにも生姜の茎葉を納品しています。
ゴリラの食品安全基準は人とほぼ同じで、生姜の茎葉は、残留農薬が危惧される為、無農薬の生姜が採用されています。現在、日本では生姜の茎葉は残留農薬検査がされていません。
高知県は全国一位の生姜の産地で4割強を占めてます。大半が慣行栽培で、4月から10月の間(ワンシーズン)に30回の農薬散布が認められています。農薬はできれば使いたくないと考えている農家は多くいますが、無農薬の生姜の栽培は非常に難しいことから、肥料を有機肥料に一部変えても、農薬を使わない栽培はなかなか広がらない現状があります。
上野動物園のゴリラに思いがけずに生姜の茎葉が納品できたことは、無農薬で生姜を作り続けた苦労を労うのに十分なものでした。この世界に入って2024年で13年経ちますが、あまりの困難さに自分がやっていることが無意味に感じられ「無農薬でなくてもいいのではないか・・」そんなささやきが聞こえたこともありました。
多くの生産者やそれに関わる人たちは無農薬栽培は農業レベルでは無理だと思っています。実際に、まだまだ技術的にも未完成な分野ですが、確実に実証データを積み上げて、近い将来必ずこの市場を確立させたいと思っています。栽培技術の向上と共に、ますます多くの無農薬の生姜が私達霊長類の健康と地球環境の保全に寄与してくれる事を強く願っています。